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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)919号 判決 1974年5月09日

控訴人 日辰倉庫株式会社

右代表者代表取締役 深井惣平

右訴訟代理人弁護士 木戸実

被控訴人 大和商会こと 高山英世

右訴訟代理人弁護士 上田誠吉

同 志賀剛

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人は被控訴人に対し金一三八万五、七〇六円及びこれに対する昭和四四年八月一二日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は第一・二審を通じてこれを一〇分し、その三を被控訴人の、その七を控訴人の各負担とする。

五  この判決は、第二項に限り担保を供しないで仮に執行することができる。

六  控訴人が金七〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

一  控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上・法律上の主張並びに証拠関係≪省略≫

理由

一  まず、原判決理由中判決書八枚目裏二行から一一枚目裏六行までをここに引用し(ただし、原判決別紙目録中規格欄(3)の「A七―二八三〇」を「A九―二八三〇」に、同欄(13)の「A七―二八六五」を「A九―二八六五」に各改め、同目録記載の各商品を、以下本件商品と略称する。)、更に次のとおり追加する。

≪証拠省略≫によると、被控訴人は控訴会社に対する昭和四二年一二月上半期分の倉庫保管料金五万一、七一九円を同月二六日に支払ったのであるが、控訴会社の倉庫が罹災したのちの昭和四三年一月中旬頃、控訴会社から交付を受けた在庫残高確認書を手持ちの売上票などと比べて見て、本件商品の在庫数量と金額に相違があるのを発見し、早速その旨を控訴会社に申出でて、控訴会社従業員西山雄介をして右一二月上半期分の保管料を右売上票表示の数量に従って計算し直させ、その差額金六、八二〇円を支払ったうえ、改めて同期分の金五万八、五三九円の領収証と保管料請求書の交付を受け、また、その際一二月下半期分の保管料金四万五、六五四円も支払い、同期分の領収証と保管料請求書の交付を受けた(被控訴人と控訴会社は、これらを資料として訴外同和火災海上保険株式会社に差額分の火災保険給付を交渉したが、拒否された)事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

二  ところで、≪証拠省略≫によると、控訴会社は発券倉庫業者ではないから、受寄物に火災保険を付する倉庫業法上の義務はないけれども、一般に倉庫業者は受託価額(受寄物の評価額)を保険金額とし火災保険を掛けるのを取引上の慣例とし、かつ、実質的にも、倉庫業者が寄託者から徴収する倉庫保管料の中には、直接火災保険料として銘打ったものはないけれども、原価計算上保険料相当分が含まれていることが明らかであるとともに、控訴会社もこの取引例に従い、被控訴人と倉庫寄託契約を締結するに当っては被控訴人を被保険者とする保険契約を締結していた(当事者間に争いのない請求原因3の事実)のであるから、控訴会社は右寄託契約上の義務として、受託商品の全価額につき火災保険の申告をすべき義務があることはいうまでもないところである。

そして、前示一の引用にかかる認定事実からすると、訴外アメリカン・ドラッグ・コーポレーションの係員は、被控訴人買受の商品を控訴会社倉庫に搬入・引渡しをするに当って、商標・品名・数量(Pcs.ピース)を記載した納品書(単価・金額の記載はない。)を控訴会社従業員に示し、右従業員はこれをもって搬入商品の点検・査収をしたうえ、これに押印して右搬入係員に返還する取扱になっており、しかも、右納品書には誤解を避けるためあえて梱包数は書かず、特定品名毎の数量(ピース)のみが数量欄に記載されているほか、各梱包の外装には品名・規格等とともに梱包中の数量も表示されていたというのであるから、本件商品の入庫査収に当り、控訴会社従業員西山雄介がこの「数量」の記載・表示を看過して品名・規格と梱包数のみをメモしたものを同従業員豊崎恵子に手渡し(≪証拠省略≫によると、同女は当時入社後間もなかったことが認められる。)、更に同女がそのメモを利用して寄託申込書・入庫報告書等を作成するに際して、被控訴人に対し漫然「単価」のみを電話で問い合わせ、この「単価」に右の梱包数を乗じて受託価額、すなわち保険金額を算定し、火災保険の申告に及んだのは、前記寄託契約上の義務の履行として尽すべき注意義務を著しく怠ったものということができる。そして、右は控訴会社従業員右西山らの重大な過失(倉庫寄託約款三五条)によるものであり、右火災保険の過少申告によって、被控訴人が本件商品につき原判決別紙目録丙欄記載の各損害(合計金一九七万九、五八〇円)を蒙ったことは前示引用にかかる一項の事実関係よりして計数上明らかである。

以上の点に関し、≪証拠省略≫における控訴会社代表者は、倉庫業者においては、受託商品は一梱包ないし一包装を一個として入庫査収し、これに単価を乗じたものが受託価額であり、保険金額である旨強調するけれども、火災保険によって填補を受けるべき損害が受託物の全価額についてであることは疑いがなく、問題はその全価額をいかに把握するかにあるのであり、商品によっては一梱包が一商品(ピース)である場合があるとしても、一梱包中に複数の商品(ピース)が包装されていることが少なくないことも社会常識に照らして明らかな事柄であるから(もちろん、この商品の数量は外装上の表示によって知ることができるはずであり、また、密封された梱包についてはそれで足りるのである。)、搬入者ないし寄託者のいう「単価」がそのいずれを指すかは、入庫の都度知る必要があり、その把握なくして商品の全価額の算出が能うものでないことはいうまでもなく、前示各供述は取引上の社会通念と条理に照らして到底首肯しがたく、採用することができない。

三  叙上の説示によれば、前記の債務不履行が控訴会社の責に帰すべき事由によらない旨の控訴人の抗弁(原判決事実摘示三、抗弁1)が理由のないものであることは明らかであり、更に、倉庫寄託約款八条による免責(同抗弁2)及び念書による免責(同抗弁3)の各抗弁が採用しがたい理由も、原判決理由説示(一二枚目裏一一行から一四枚目裏八行まで)と同一であるから、これをここに引用し、なお、右一四枚目七行の「の一部」の次に「、当審における証人秋山美敬の証言、控訴会社代表者尋問の結果(第一回)」を挿入する。

四  しかして、引用にかゝる前記一・三項の事実関係に徴して更に検討すると、そもそも寄託申込書は寄託者作成名義のもので、商品搬入時に立会った寄託者ないしその従業員が作成して受託者(倉庫業者)に差入れる仕組みになっており、かつ、それは受託者が入庫手続の際に作成する入庫報告書、寄託商品台帳等の基礎となる書面である(すなわち、倉庫業者は寄託者の任意な申告に基づいて保管料を徴収し、火災保険を申告することになる。)ことが明らかであるところ、≪証拠省略≫によると、被控訴人は控訴会社に商品の寄託をするようになった最初の頃は、その都度控訴会社倉庫に出向いて入庫に立会っていたがその後手間を省いて立会をしなくなり、前記アメリカン・ドラッグ・コーポレーションからの搬入には、同会社の係員小沢五郎だけが立会うことが多く、このようないきさつから、右寄託申込書は、控訴会社の従業員が右小沢の呈示する納品書(単価と金額の記載はない。)と現品で数量を確認し、単価は寄託者側に電話で問い合わせて受託価額(保険金額)等を含む所要事項一切を記入・作成する便宜上の取扱になっていたことが認められる。

このように、商品の単価と数量は受託価額(保険金額)を決定するのに必須の要素であるが、その数量は入庫時の査収によって判明しえても、単価が明らかでないため、これを電話による問い合わせによっているわけであるが、それというのも寄託者である被控訴人が入庫時の立会を省いているからであり、寄託申込書の作成が便宜前述の方法で反覆されているとはいえ、このような取扱事情と被控訴人の立場に鑑みれば、右問い合わせに際して、寄託商品の総価額の正確を期する意味において、商品の「単価」を知らせるついでに、手持ちの資料で「数量」の確認をも求めるのが適切な処置であり、かつ、それは容易に可能な処置でもあって、取引の常識に適った方法というべきである。被控訴人は控訴会社からの問い合わせの電話で「単価」に限って聞かれ、それと断って答えたとはいうものの、漫然それのみに終って前記売上票等で数量・金額が明らかであるのに、右の確認手段を講じなかったのであるから、これは取引上の手落ち、怠慢であり、この点に債権者側にも過失があるといわざるをえない。その過失割合は控訴会社の前示帰責事由(過失)に対比すると、控訴会社七・被控訴人三とするのが相当である。

五  以上の次第であるから、本件商品に対する被控訴人の損害額合計一九七万九、五八〇円につき職権をもって過失相殺を施すこととし、それによれば、控訴会社は右の七割に相当する金一三八万五、七〇六円の限度で賠償責任があり、被控訴人は右金員とこれに対する本訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四四年八月一二日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める権利があるから、右の限度で被控訴人の請求を認容し、その余を失当として棄却することとする。

六  よって、これと結論を異にする原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を、仮執行及びその免脱の各宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅賀栄 裁判官 小木曽競 深田源次)

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